だめじゃないか

 弾けて消えた後に残った白い光が、ふわふわと漂い、俺の後ろに流れていく。


 俺の後ろに現れいたセイさんを見上げると、彼は不満そうに、微笑んでいた。

物語には筋道があるんだよ、順番、順番

 白い光をつかんだセイさんは、微調整しないと、と呟く。

 微調整。俺はかれた声で呟く。

サンザシは……?

サンザシは限界だ。しばらくは僕が、サポーターをしてあげる

 この人の微笑の裏にも、なにかが隠れているのだろう。

君はもう、気がついちゃったかな?

この名前の、意味ですか

名前には、意味があるからねえ

 俺は、目を閉じる。


 今回、この物語で、崇という名前に、なった理由が当たっているのなら。

もうすぐ、このゲームは終わるんですか。

だから、この名前はもう、必要ないんじゃないんですか



 胸が張り裂けるような思いで言った。


 楽しかったこの旅も、もう終わるのではないか。

 もう偽名を名乗る必要がないから、この名前を使ったのではないか。


 しかし、俺の予想はどうやら外れていたようだった。

んー、もうすぐ終わるなんて考えているのなら、それは少し楽観的すぎるかも

 セイさんはふふ、と怪しげに微笑む。

楽観的……?


 ゲームが終わってしまうことが?

 どういうことだ?

つまりだ。こんなやんわりふわふわなゲームはおしまい。

もうすぐ、のほほんとはしなくなるね。

待ち望むのはシリアスさ。

まあでも、その前にワンクッション置いてあげはするよ。

その前にほら、この物語の結末を見ないと! それが君のすべきことだ!

 セイさんが、駄菓子屋の奥を指して、苦笑する。

さっきから、出づらそうにしているマサヨシ君がかわいそうだからね







マサヨシ、この駄菓子屋、売るなよ

 奥にいて心配そうにしていたマサヨシに、俺はそう言って、強くうなずいた。

 マサヨシも、おう、と何度もうなずきかえしてくれる。

当たり前だよ。売ろうなんて考えたことねえよ

よし

あー……っと、そのだな、そっちが干渉してきてるからって理由で、こちらも干渉させてもらうとだな

僕のことかい?

 俺の後ろに、あたりまえのように立っていたセイさんが、驚いたようにのけぞるしぐさをする。

 いやいや、と首を降るマサヨシは、俺とセイさんを交互に見て、言いずらそうに切り出した。

いやー……お嬢ちゃん、つまりは、サンザシちゃんのことです、ね

彼女は療養中、さ

療養? 病気ですか?

いやいや、そんな。そんなかわいいもんじゃ、ははは!

 セイさんがからからと笑う。マサヨシが怪訝な表情を浮かべているので、アイコンタクトを送っておく。

 気にするな、気にしちゃダメだ。通じただろうか。

 マサヨシがひとつ、うなずいた。

お大事にって……掃除と買い物の、お礼も言えないままだ

俺が伝えておくよ

 マサヨシからのアイコンタクト。心配そうな表情に、俺は無理矢理微笑んで見せる。それがますます彼を不安にさせたかもしれないが、仕方がない。


 俺だって、心配で仕方がない。それでも、まずはこの物語をクリアしないと、はじまらない。

ただいまあ!

 ヨシキの声だ。ぽん、と駄菓子屋全体が明るくなった錯覚さえ覚える。

5 駄菓子屋の未来 記憶の原点(15)

facebook twitter
pagetop