【第八話】
『新たな敵』


ケーキ屋『マスカレイド』では、トキオとマスターが向かい合って座り話しをし、少し離れた席で鳴海が二人の会話を黙って聞いていた。

トキオ君―――何を壊すって?

・・・ノアの方舟



言ってから、直ぐにトキオは笑ってごまかす様な素振りを見せた。その真意はマスターには分からない、いやトキオは伝えようともしていない。ただ、一人背負った何かを誰かに言って少し気持ちを軽くしたかった程度の戯れ言。

誰も言葉を発しない。
そのタイミングすら見えない、店内に重たい空気が張り詰めた。
しかし、その思い空気を断ち切ったのはトキオ自身だった。

今はもう、オメガをグリムだって言ってる場合じゃなくなったんだよ。コンバイドっていうのが普通に世の中に潜んでる時代になっちまったんだ―――だから、気付いた誰かがなんとかしなきゃ、変わらないし変われないんだよ・・・それが例え俺一人でもね



言い終えたトキオの表情は曇る事なく、むしろ清々しいほど明るかった。

お二人とも、紅茶はお嫌いでしたか?

・・・いや・・・って言うか、その・・・船橋さん!

俺にふるな



話を振られた船橋は、神風の如き早さで左右田の質問をシャットアウトした。しかし、それも無理は無い。何故ならば、船橋と左右田はティーカップを持たされていて、坂本は電子ポットを持っている。しかも田園調布の住宅街でだ。

コーヒーもありますよ―――



坂本は缶コーヒーを片手に持っていた。

えっ!いつの間にっ!

缶ですけど・・・すみません

いや、缶がとかじゃなくて・・・

じゃぁ、ブラックはお嫌いでしたか?



すっかり困惑している左右田を横目に船橋は言った。

俺はブラックでいいぞ。左右田も受け取っておけ。これじゃ話が進まん

はぁ・・・じゃぁ俺は紅茶でいいです

どうぞ。どうぞ



左右田は2・3度坂本をチラ見してから言う。

砂糖って・・・あります?

ありますよ



またしても、いつの間にか坂本の手には砂糖が入った容器があった。坂本はそのままスプーン一杯分取り、『一杯で良いですか』みたいな表情で左右田を伺うので、左右田は無言で力強く頷いた。

何でも出て来ちゃいますね。何か英国紳士かと思ってたんですが、もうマジシャンにしか見え―――

左右田、失礼だろ

あっ。すみません



坂本は、そんな二人に笑顔で答えると、突然話しを始めた。

先程話した様に、本来グリムと呼ばれる者はもういないのです。今、皆様が戦っている敵は一部暴走したオメガであるのですが、大半がコンバイドと呼ばれている者です



突然始まった話しであったが、船橋と左右田は話しの腰を折る事なく黙って坂本の話しを聞いている。

そもそもコンバイトは、人間の身体の内部に入り込み身体を中身から制圧し、その者に成り代わる存在です。その行動の意図は解りませんが、西暦2000年に次々と各地で遺跡が発掘されるよりも前から、既に発掘されていた巨大な遺跡から発生したモノだと、ある冒険家が言っていました。それから徐々に細々と勢力を拡大し今に至ります



一通り言い終えたと判断し船橋が口を開いた。

一概に納得できる内容の話しじゃないが、こうやってグリムが―――じゃなくオメガってのが会話できるモノだって事すら俺は知らなかったからな。改めて調査する必要があるって事か



しかし、坂本は首を横に振った。

調査の必要はありません。時間がないのです。あなた方の力を今直ぐにお借りしたい

俺達の力?

正確には国家権力・・・UC-SFの力をお借りしたいのです

【第八話】『新たな敵』

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