オオナムチ

これでよし。
・ ・ ・ ではでは。お世話になりましたっと。

オオナムチはスサノオを起こさないように静かに部屋を出ると、扉の前に500人係でないと持てないような大岩をそっと置いた。


そしてそのままスサノオの自室に直行し、『大刀』『弓矢』『琴』を持ち出した。


準備が整うと、スセリビメの部屋に向かう。

オオナムチ

ヒメ ・ ・ ・ ・ ・ ・ いる?

オオナムチの姿を見たスセリビメは不安そうな顔をした。だって、完全に旅支度じゃないか。


てゆうか盗人スタイル?

スセリビメ

オオナムチ?
その荷物 ・ ・ ・ どうゆうこと??

オオナムチ

この大刀と弓矢があれば、政治が行える。そしてこの琴があれば、天つ神から助言をもらえる。

僕はこの国を治めたい。あんな兄達に任せたくないんだ。

スセリビメ

・ ・ ・ ・ ・ ・ 行っちゃうの?

オオナムチ

あぁ、行くよ。
君を連れて出雲に帰る!!

彼女は目を見開いた。涙が今にも溢れそうだ。その表情からは嬉しいのか、悲しいのか、喜んでいるのか、驚いているのか、読み取ることができない。

スセリビメ

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ でも ・ ・ ・

オオナムチ

だって、スサノオ様は、分かり易すぎるくらい君の事が大好きじゃないか。絶対に君を手放さないよ。

スセリビメ

・ ・ ・ ・ ・ ・

オオナムチ

でも僕の方が君のことを愛してるっ!!
手放さないなら奪うまでだ。

ほら、君は早く走れないだろ?
僕がおぶって行く。スサノオ様が起きる前に早く乗って!!

オオナムチはスセリビメに背を向けてしゃがんだ。

オオナムチ

頼む ・ ・ ・
一緒に来てくれ ・ ・ ・ ・ ・ ・

スセリビメに背を向けた数秒が緊張で何時間にも感る。


しかしすぐ背中に重みを感じることができた。

スセリビメ

オオナムチ ・ ・ ・ ・ ・ ・
ありがとう、嬉しいっ!!!

彼女は、オオナムチの背に体を預けた。


『思ったより重い ・ ・ ・』 とは本人に言えないものの、心が一気に軽くなった。

オオナムチ

・ ・ ・ よしっ!
しっかり捕まってろよ!!

スセリビメをおぶったオオナムチは、一目散に黄泉比良坂へ向かった。


彼女はすぐについてくる事を決めてくれたが、走っていると、オオナムチは肩のあたりがじんわり暖かくなるのを感じた。

オオナムチ

泣いてるのかな。

心がちくりとする。ふとスセリビメが家を振り返り身体を上げた。


その瞬間。『ボロロロン ・ ・ ・ 』と琴が大きく鳴り、地面が揺れた。木に弦が引っかかったのだ。

遠くから雄叫びが聞こえる。

オオナムチ

ヤバイヤバイヤバイ!!

この人間とは思えない声・・・
絶対スサノオ様だ!めっちゃ怒ってる!!

スセリビメ

オオナムチ!ごめんなさい!!
枝に気づかなくて ・ ・ ・

オオナムチ

いい!
ちゃんと掴まってろよ!!

次は尋常じゃない叫び声が聞こえた。

スセリビメ

えっっ?何??
パパどうかしたの???

オオナムチ

スサノオ様の髪を、柱にキツーく縛っておいたんだ。だから、しばらく追って来れない。

急ごう!!

しかし、すぐに後ろから追ってくる音が聞こえてきた。

スサノオ

待てゴルアァァ!!!

オオナムチ

うわっっ!!早っっ!!!!
超でっかい岩も置いて来たんですけどっ!!あれ、意味なかった???

スセリビメ

えっっ ・ ・ ・
パパの頭 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

オオナムチ

あぁ。くすくすっ!かわいいだろ??
お礼の印にリボンつけてきたんだ。

スセリビメ

いや ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
柱付いてる。

オオナムチ

マジでっっ!?
どんな怪力だよ!!!

しかし黄泉比良坂は目の前だ。


オオナムチは全速力で坂を駆け上り、さらに遠くまで逃げた。


スサノオも黄泉比良坂を駆け上り、辺りを見渡す。すると、遠くにオオナムチたちが逃げていく姿が見えた。


これの距離では、追い付けない。スサノオは怒りの雄叫びを上げた。

スサノオ

ングアアアアァァァ!!!クッソオオオォォォ!!

オオナムチ

ビクゥゥッ!!

かなり距離があるはずなのに、ものすんごい声だ。

スサノオ

オイッッ!!!オオナムチぃ!!!

あぁ!クソォ!!!

スンゲェ、ムカつくっ!超ムカつくっ!!クソッッ!もう追わねぇよっ!!追わねぇから、止まって聞けぇぇっっ!!!

オオナムチ

へっ???いやいやいやいや。

追って来ないとか言われても、すんげぇ、迫力なんですけど。一刻も早く逃げたいんですけどっっ!!!!

スサノオ

るせぇ!!
黙って聞けっ!!

オオナムチ

はいっっ!!!

スサノオ

・ ・ ・ ・ ・ ・ えっと ・ ・ ・ だな。
・ ・ ・ ぉ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ お前と、
スセリの結婚を認めてやるよ。

オオナムチ

お??

オオナムチ

おぉ~!!お義父さまぁっ!!
ありがとうございますっ!!!

スサノオ

っせぇ!!バカ!!

ただし、俺の娘をもらうからには出雲から八十神を追い払って、国づくりをするんだ。

その大刀と弓矢があればやれるだろ。結納代わりだ。持ってけ!!

オオナムチ

はいっ!!

スサノオ

あと ・ ・ ・ ・ ・ オオナムチなんてナヨイ名前はもう名乗るな。お前に名をやる。

今日からお前は『大国主神』だ!!

オオナムチ

オオクニヌシノカミ ・ ・ ・ ・ ・ ・
立派な名をありがとうございます。

スサノオ

新居は宇迦山がいいだろう。
スセリを頼んだからな。コノヤロー。

オオナムチ

はい ・ ・ ・ お世話になりました!!

オオナムチ改めオオクニヌシは、スサノオに深く頭を下げ、出雲へと急いだ。

出雲へ帰ったオオクニヌシは早速、八十神を追い払った。彼らはビックリするほど弱かった。スサノオから与えられた試練によって、オオクニヌシは知らない間に強くなっていたのだ。


まぁ、最後にもらったアイテムの力もあるだろうけど。


そして、宇迦山の麓に大きな宮殿を建てて、スセリビメとの新婚生活をスタートさせた。


『こうして2人はいつまでもいつまでも幸せに暮らしました。めでたしめでたし。』


と、今度こそ締めくくりたいところだが、オオクニヌシの物語はまだ終わらない。


順風満帆の生活が続くかと思いきや、オオクニヌシは宮殿ができあがって早々に、因幡のヤカミヒメを迎えに行ったのだ。

オオクニヌシ

ごめんくださぁーい!

出雲から来た、オオクニヌシですけどー。
ヤカミヒメさんいらっしゃいますかぁー??

そんな彼の呼び掛けで出できた女性は、目を見張る美しさだった。


さすが噂の美人。

ヤカミヒメ

オオクニヌシ様・・・オオナムチ様ですよね?まさか会いに来てくださったんですか!?

オオクニヌシ

うん・・・まぁ、会いに来たってゆうか・・・・

ヤカミヒメ

あぁ、ありがとうございますっ!!

あなたが亡くなったと伺っていたのですが、最近、宇迦山に新居を建てられたって噂を聞いたものですから、毎日いてもたってもいられなくて・・・それがオオクニヌシ様の方から会いに来てくださるなんて・・・・・

やっぱり来て良かった。美人の笑顔はたまらない。

オオクニヌシ

いやぁ・・・・・実は会いに来たってゆうか、迎えに来たんだ。僕ら結婚する約束だったろ?

ヤカミヒメ

えっ・・・でも、最近ご結婚されたばかりだと聞きました。
新婚で私なんかが伺ってもいいんですか?

オオクニヌシ

もちろん!
嬉しいことにまだこの国は一夫多妻制だ。

ヤカミヒメ

でも・・・・

オオクニヌシ

初対面とはいえ、君は僕の初恋の人だもの。

ヤカミヒメ

オオクニヌシさま・・・・

オオクニヌシ

ほら、おいで。

こうして、彼女の手をグッと引くと、オオクニヌシは、またもや初対面の女性を玄関先で押し倒した。


『イジメられっ子の心優しい少年が、2度の死と辛い修行を乗り越え、敵を撃ち国を治める。』


なんて、王道少年漫画の主人公のような人生を歩んできたオオナムチことオオクニヌシだが ・ ・ ・ ・ ・ ・


この後『元祖チャラ男』として日本全国にその名を轟かせることになる。

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