というか、相変わらずスーツを着ているし、もう、訳のわからないことばかりで、そろそろキャパシティーオーバーだ。

 いろいろ遊ぶなかで、ぼろが出ることはなかったけれど。

 ロジャーは、何でも細かく教えてくれ、そして俺が知っているかどうかを確かめるようなことはしなかった。

 もしかしたら、俺に何か事情がありそうだということをなんとなく察したのかもしれない。察しのいい人だ。


 映画のあと、ゲームセンターに買い物と遊びに遊んだ俺たちは、適度な疲労感に襲われていた。

ひきずりまわしてごめんな。楽しくてよ。マキトの部屋、案内するぜ。といっても俺のとなりの部屋だけどさ

 つれていかれた部屋は、ロジャーの隣の右隣の部屋だった。

 とんでもない大きさに驚愕。壁一杯になぞの画面が埋め込まれている。テレビだろうか? ベッドも、キングサイズ。

 テーブルと勉強机がおかれていて、さらに奥にも部屋がある。人が三人暮らしてもあまるぐらいの大きさだ。

こんな、いいの?

いいのいいの。でかい部屋って高いからさ、あまってるんだ。使えばいいよ。少し休むか?

そうだね、少し

オーケー、じゃあ夕飯のときにまた呼びに来るよ

 ロジャーがじゃあなと出ていった瞬間、俺はベッドにたおれこんだ。

サンザシさーん、ここの世界観の常識をレクチャーしてくださいー。というかレクチャーしてからこの世界に飛び込む方法がいいですー

最高難易度だから無理ですよー

嘘でしょ!

 嘘です、とサンザシはけらけら笑って、ベッドのすみに腰かけた。サポートなのに、嘘ついたぞ、この子。

ゲームマスターから、よく分からない世界観で崇様がどうするかを見るように言われていたんです、ごめんなさい。

なかなか楽しんでいただけたと思うんですけれど

学園生活とは比じゃないくらい、ずっとそわそわしてたよ。質問もたくさんある。

ここは日本なのか? なんでスーツを着ているんだ?

 そのとき、突然どすん、とベッドの端に誰かが座る音がした。

 ぎょっとして顔をあげると、やっほーと笑っていたのはセイさんだった。

セイさん! どうしてここに?

いやあごめんごめん、世界観に翻弄されてるみたいだったからさ、お助けに来たよ。

でも世界観がわからないなりに、面白いことはあるよ? いいの、知識を植えつけちゃって

かまいませんよ

 と、言うか言わないかのうちに、セイさんはそれ、と俺に人差し指を向けた。とん、と頭の中で何かの響いた音がして――。

うわあ! なんですかこれ!

 頭の中で、次々といろいろな疑問が解決される。

 わからない問題が解けたときのような快感もあるが、その行程がわからないため、混乱も伴う。なんじゃこりゃ。

魔法だよ、すごいでしょ。

この世界の知識をそこら辺にいた同い年ぐらいの人からコピーして、君の頭の中にペーストしておいた。

ちなみにその知識は、俺がこの世界に下見をしにきたときのものだから、二週間前ぐらいの知識だからね

 おれはこくこくと頷く。

 本当、魔法ってなんでもありなのかもしれない。知識を一気に詰めこまれた感じ。

 あのテレビの使い方もわかるし、日本語なのはセイさんの翻訳魔法が俺にかかっているからで、スーツを着ているのは――

年に一度のスーツ品評会って、どういうことですか!

ま、パーチーだよパーチー。

君らはスーツを身体に馴染ませるために着用してるんだね。モデルだよモデル、よかったねー楽しんでね。んじゃあねー!

 まって、という声も聞かず、ぽんと消えてしまう。

名誉ある品評会では、若い人たちがそのスーツを見にまとい、戦うって、植え付けられた知識が言ってるんだけど、俺、戦うの? これで?

そういうことです。どうせなら優勝目指してがんばりましょー!

 サンザシがえいえいおーと拳を突き上げる。

いやいや、無理だろ! だって、ここ三年連続で出場している、ロジャーが今回も出てる!

 植え付けられた知識の中にある、ロジャーに関することを、言ってから、よくよく考える。


 考えて、思わず吐き気がする。はじめてこの世界に来たときの、無重力状態でくるくるまわっているような感覚にも陥る。
 ロジャーは、自分が王子様みたいに扱われるなんていっていたけど、とんでもない。


 あいつは王様だ。敵なしの、王様。将来有望の――

将来有望の、戦士だ

 詰めこまれた知識。この国の記憶。戦いの歴史。
 俺は、うなだれた。

平和な国じゃあ、ないのか

2 赤色の君は未来の英雄(4)

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